神戸地方裁判所 昭和59年(行ウ)31号 判決 1988年12月14日
主文
一 本件訴えのうち、被告に対し別表記載(一)の会合に関して支出された公金相当額の補てんを求める部分を却下する。
二 原告らのその余の請求を棄却する。
三 訴訟費用は原告らの負担とする。
事実
第一 当事者の求めた裁判
一 請求の趣旨
1 被告は、兵庫県に対し、金七八万一三六九円及びこれに対する昭和五九年九月九日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
二 請求の趣旨に対する答弁
1 本案前の答弁
(一) 本件訴えを却下する。
(二) 訴訟費用は原告らの負担とする。
2 本案の答弁
(一) 原告らの請求を棄却する。
(二) 訴訟費用は原告らの負担とする。
第二 当事者の主張
一 請求原因
1 当事者
(一) 原告
原告らはいずれも兵庫県に在住する兵庫県民である。
(二) 被告
被告は、昭和五八年度当時、兵庫県北摂整備局(以下「北摂整備局」という。)次長兼総務部長であった者である。
2 被告らによる公金支出の内容
別表記載の各公金支出(以下「本件各支出」という。)は、被告のほか北摂整備局局長である竹村章その他の関係者が、北摂整備局の所管する北摂三田ニュータウン及び青野ダム建設事業の推進にからめて、兵庫県幹部職員、兵庫県会議員及び住宅・都市整備公団(以下「公団」という。)職員らの接待や北摂整備局の部内職員の慰労等を目的とする飲食及びその際のタクシーによる送迎の費用として費消したものであり、その内容は次のとおりである。
(一) 別表記載(一)の会合(以下「本件(一)の会合」という。)にかかる公金支出(以下「本件(一)の支出」という。)について
これは、被告が有馬温泉内の古泉閣において、稲谷茂実新都市計画部副部長ほか四名を接待し、飲食費九万五八三七円を支出したものであり、その飲食の内容は、一人当たり食事一万円、ビール〇・八本強、日本酒二・五本、マージャン付きというものであり、その実態はまさしく「宴会」そのものである。
しかも、右宴会後、出席者の若干名をタクシーで送っており、これら飲食費及びタクシー代金の合計額は、少なくとも一五万円を超えるものである。
(二) 別表記載(二)の会合(以下「本件(二)の会合」という。)にかかる公金支出(以下「本件(二)の支出」という。)について
これは、北摂整備局OB会と称して北摂整備局の元職員一〇名ほかを接待し、北摂整備局局長竹村章出席のもとに行われた「懇談会」の飲食費及び「懇談会」終了後に出席者のうち若干名を自宅等までタクシーで送ったことに対して支出されたもので、その金額は、タクシー代金を含め少なくとも一〇万円を超えるものである。
(三) 別表記載(三)の会合(以下「本件(三)の会合」という。)にかかる公金支出(以下「本件(三)の支出」という。)について
これは、三田総合庁舎で、北摂整備局の「局内幹部会議」を行った後、「懇談会」の名目で北摂整備局の幹部職員一三名ほかが飲食したことに対して支出されたもので、その金額は、懇談会終了後のタクシー代金を除いた飲食に直接要した費用だけでも一四万五五三五円に達する。
(四) 別表記載(四)の会合(以下「本件(四)の会合」という。)にかかる公金支出(以下「本件(四)の支出」という。)について
これは、北摂整備局の事務事業に関して県監査委員事務局職員が事前監査を行った後、「監査結果検討会」と称して、監査を直接担当した監査委員事務局職員を含む北摂整備局と本庁各部の担当職員及び県会議員数名の計二三名ほかが飲食したことに対して、少なくとも一八万五八三四円(検討会終了後のタクシー代金を除く。)が支出されたものである。
(五) 別表記載(五)の会合(以下「本件(五)の会合」という。)にかかる支出(以下「本件(五)の支出」という。)について
これは、公団と北摂整備局ほかの間の「公団・県事業調整会議」終了後、「夕食会」と称して、北摂整備局職員九名及び公団職員七名ほかの接待等に対して、少なくとも二〇万円を超える飲食代金及び夕食会後のタクシー代金等が支出されたものである。
3 本件各支出の違法性
(一) 地方自治法二三二条の三違反(予算の目的外支出)
(1) 本件各支出は、北摂整備局における歳出科目である需要費中の食糧費から支出されたものであるところ、食糧費の本来の支出目的は、行政事務執行上直接に必要な職務の一環として考えられる場合に、必要最小限の食糧調達のために使用されるべきものであり、その具体例は、式日用茶菓子、接待用茶菓子、弁当、非常炊出賄や、警察留置人食料、病院・診療所等の患者食料である。また、食糧費の特質から、需要費の節に予算科目が統合されたが、その執行については内部統制が必要となる経費であるから、配分に際してコントロールする必要があり、本来交際費に入るべき公の飲食費用は、食糧費とはその目的と性格が異なり、混同して計上、執行されてはならない。例えば、県庁の他部局の幹部職員等を接待したり、ましてや北摂整備局の部内職員らの慰労のために飲食したりすることは、食糧費の支出目的としては認められないものである。
(2) しかるに、本件各支出は、公団職員や兵庫県庁内の他部局職員の接待の北摂整備局の部内職員の慰労等を目的として支出されたものであり、地方自治法(以下「法」という。)二三二条の三に違反し、法令または予算に従わない支出負担行為に基づいてなされたものであり、違法である。
(二) 地方財政法四条一項の違反(目的達成のための必要かつ最少限度の範囲を逸脱した違法)
(1) 仮に、本件支出が兵庫県の支出すべき食糧費として許容されるものであったとしても、本件支出は、いかなる目的をもって、かつまたいかなる効果を期待してなされたものか不明であり、前述の本件支出の内容や実態に徴すると、北摂整備局の所管する各種事業の円滑な推進を図るための目的があったとか、業務遂行に資する効果を期待して行われたものとは到底考えられない。
食糧費の支出が地方財政法四条一項の定める「その目的を達成するための必要かつ最少の限度」であるといいうるためには、その支出目的が「行政事務執行上直接に必要な職務の一環として考えられる場合」であることが必要であり、かつその支出限度が「必要最少限の食糧のための使用」の範囲内であることが必要である。
しかるに、本件支出は、行政事務執行上直接必要な職務の一環として支出されたものとは考えられず、かつ、必要最少限の範囲を逸脱しており、違法な公金支出である。
(2) また、兵庫県の職員が内輪で宴会ともいうべき食事を行うことは、外部との調整のために儀礼として社会通念上相当と認められる範囲での会合ないし接待を行うこととは本質的に異なるものであり、少なくとも、本件各支出のうち職員の内輪の会合に関して支出された部分が、前記「必要かつ最少の限度」の経費の範囲を逸脱していることは明白である。
(3) なお、食糧費の支出が適法か否かを判断する基準としては、「職員等の旅費に関する条例」(昭和三五年兵庫県条例第四四号、以下「条例」という。)が準用されるべきである。なぜならば、条例一九条は、「<1> 食事料の額は、別表第一の定額による。<2> 食事料は船賃若しくは航空費のほかに別に食費を要する場合、又は、船賃若しくは航空費を要しないが食費を要する場合に限り支給する」と規定しており、右規定は、職員が公務のために旅行する際、食事料の支出が不可避である場合に備えて制定されているもので、その制定趣旨は食糧費と何ら異ならないからである。
したがって、右の食事料の額も超えて食糧費を支出する場合には、職員の公務のための旅行における食事料の目的や必要性と比較して、それを上回る目的または必要性が存在しなければならないが、本件各支出においてはそのような合理的な目的ないし必要性は何ら存在しない。
ちなみに、昭和五八年度の兵庫県における職員の食事料は、一夜につき、職員の等級に応じ一四〇〇円ないし二二〇〇円の定額と定められている。
以上、本件各支出は、いずれもその支出目的が「食糧費」に含まれない「接待」ないし「慰労」であり、かつ、社会通念上著しく妥当性を欠くものであるばかりか、その支出範囲も最少限度を超えたものであるから、違法支出たるを免れない。
4 被告の損害補てん義務
(一) 被告は、北摂整備局局長から北摂整備局における食糧費の支出権限を内部委任された者であり、食糧費の支払命令権者であったところ、本件各支出は、前記2及び3において述べたとおり、「接待」や「懇談会」と称する宴会等のための支出であり、食糧費の支出目的を逸脱していることは明白であるから、その職務の遂行にあたり、故意又は重大な過失によって違法に公金を支出したものであり、その結果兵庫県が被った損害について賠償しなければならない義務がある。
(二) また、被告は、率先して別表記載の各会合(以下「本件各会合」という。)に出席し、自らも本件各支出にかかる公金を費消したものでり、少なくとも、前記食事料の基準を超える食糧費の支出に関して不当利得した結果となり、右不当利得相当額について兵庫県にこれを返還しなければならない義務がある。
5 監査請求
そこで、原告らは、本件支出について、昭和五九年五月三〇日、兵庫県監査委員会に対し住民監査請求をした(但し、その受理は同年六月六日)が、同委員会は、同年七月三一日付をもって、原告に対し、「本件請求にかかる措置請求は、いずれも理由のないものと認める」旨の監査結果を通知した。
しかしながら、原告らは、右監査結果に不服であるので、法二四二条の二第一項四号に基づき、兵庫県に代位して、被告に対し、兵庫県が本件各支出により被った損害の合計額である金七八万一三六九円及びこれに対する本件訴状送達の日の翌日である昭和五九年九月九日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金を兵庫県に支払うことを求める。
二 被告の本案前の主張
1 法第二四三条の二による法第二四二条の二第一項四号の適用排除
原告ら主張の本件各支出に関する賠償責任の存否若しくは範囲の決定又はその責任の実現は、専ら法二四三条の二所定の手続によってなされるべきものであって、これとは別に、法二四二条の二第一項四号の規定に基づき、兵庫県に代位して、兵庫県が被った損害の賠償を求めることはできないと解すべきであるから、本訴請求は、不適法であり、却下されるべきである。
2 監査請求前置の要件不充足
本件訴えのうち本件(一)の支出にかかる公金相当額の補てんを求める部分は、適法な監査請求を経ていないから、不適法として却下されるべきである。すなわち、本件(一)の支出は、本件訴訟に前置する監査請求の手続において監査請求書の提出があった昭和五九年五月三〇日の時点において既に一年を経過しており、右監査請求が適法な監査請求期間を経過した後になされたことは明らかであり、かつ、同支出について法定期限までに請求することを妨げるような特段の事由、すなわち法二四二条二項ただし書きにいう「正当な理由」は何ら存在しないので、同支出は右昭和五九年五月三〇日の時点ではもはや住民監査請求の対象とはなりえなかったものであるから、本件訴えのうち、同支出にかかる部分については、適法な監査請求を経ていないものというべきである。
3 被告適格の欠如
本件訴えのうち本件(二)及び(五)の支出にかかる公金相当額の補てんを求める部分は、以下に述べるとおり、被告に右各支出につき支出の権限がなかったのであるから、不適法な訴えである。すなわち、
(一) 北摂整備局における支出負担行為及び支出命令の権限については、地方機関処務規程及び北摂整備局処務細則の規定に基づき、次のとおり、その内容に応じて、同局局長の権限が、総務部長、副部長及び経理課長に配分され、それぞれ当該権限を有する者が、当該権限を実質的に行使することとされている。
[一] 総務部長の権限(専決事項)
(1) 一件五万円以上の食糧費の執行にかかる支出負担行為
(2) 一〇〇〇万円以上の支出命令
[二] 総務副部長の権限(代理決裁事項)
(1) 一件五万円以上一〇万円未満の食糧費の執行にかかる支出負担行為
(2) 一〇〇〇万円以上の支出命令
[三] 総務部経理課長の権限(専決事項)
(1) 一件五万円未満の食糧費の執行にかかる支出負担行為
(2) 一〇〇〇万円未満の支出命令
(二) 後記四、五のとおり、本件(二)の支出の一万一〇五五円、本件(五)の支出のうち七万一四四五円はいずれも食糧費からの支出であるから、これを右権限の配分規定に照らすと、前者は北摂整備局総務部経理課長の権限に属する事項であり、後者は同局総務部長の権限に属する事項であって、いずれも被告に当該支出負担行為及び支出命令の権限が存しなかったものである。
したがって、本件(二)及び(五)の支出にかかる損害補てん請求の訴えは、被告とすべき者を誤った不適法なものである。
三 被告の本案前の主張に対する原告の反論
1 法二四三条二による法二四二条二第一項四号の適用排除の主張は、争う。
2 監査請求前置の要件不足の主張について
原告らは、本件訴訟に先立つ監査請求にかかる監査請求書の提出後である昭和五九年六月一一日付で、監査委員からなされた補正の指示に対し、右監査請求が本件(一)の支出から一年経過後になされたことにつき、「正当な理由によるものと判断する」と返答し、法二四二条二項ただし書きが要求する正当理由の存在の主張をしており、監査請求前置の要件を欠くものではない。けだし、本件(一)の支出が、何の目的のために、いつ、誰の手によってなされたのかを一般市民が知る手段は全く存在しなかったのであり、法二四二条二項本文所定の監査請求期間を徒過した後に監査請求をすることもやむをえない事情があったというべきである。同項ただし書きが正当理由の存在を要求する前提としては、同項本文所定の期間内に、当該公金支出について一般市民がそれを不正、不当であると合理的に判断することができる状況が客観的に存在すること、本件に即していえば、少なくとも北摂整備局の決算書に本件(一)の支出が飲食費として記載され、右決算が承認された事実等が必要であるが、このような事実は存在しない。
3 被告適格の欠格の主張について
(一) 北摂整備局次長としての被告適格
北摂整備局における支出負担行為及び支出命令にかかる権限については、同局次長である被告が同局局長の職務代理として、右権限を行使しているものであり、本件(二)及び(五)の支出についての支出権者は被告である。
行政組織内部において、個々の支出の金額の多寡に応じて支出負担行為の権限が内部委任されるとしても、それらの支出に関する住民訴訟の被告は、終局的な支出権限者ないし実質上の支出行為の担当者である個人であり、そのほかに、本件各支出のような宴席における飲食費の支出については、右飲食を行った公務員個人である。本件においては、第一義的には、北摂整備局の代表者たる同局局長であるが、被告も実質上の支出行為の担当者である。
(二) 北摂整備局総務部長としての被告適格
北摂整備局における支出負担行為及び支出命令にかかる権限については、その内容に応じて、局長の権限が、被告主張のとおり、総務部長、副部長及び経理課長に配分されていたものであるが、本件(二)及び(五)の支出は、いずれもその金額が五万円を超えるものであり、右支出に関する支出権限は、北摂整備局総務部長としての被告にあった。
四 請求原因に対する認否
1 請求原因1の各事実は認める。
2 請求原因2の冒頭部分の主張は争う。同項各枝についての認否は、次のとおりである。
(一) 請求原因2(一)は、昭和五八年五月一六日、「古泉閣」に被告及び新都市計画部副部長らが会合し、その飲食費として九万五八三〇円が支出されたことは認めるが、その余は争う。
(二) 同(二)は否認する。但し、昭和五八年一二月二二日、三田市在住の元兵庫県職員で組織する「北摂のじぎく会」が開催され、その後、「律泉」において行われた同会主催の懇談会に、被告及び北摂整備局局長らが北摂整備局の事業推進協力要請のために出席し、一万一〇五五円が支出されたことは認める。
(三) 同(三)は認める。但し、支出金額は一一万八七七五円である。
(四) 同(四)は、「監査結果検討会」と称して飲食したこと、県会議員数名が加わっていたことを否認し、その余は認める。但し、支出金額は一五万七三八四円である。
(五) 同(五)は、接待等に対して支出したことを否認し、その余は認める。但し、支出金額は八万九八〇五円(タクシー代を除く食費としては七万一四四五円)である。
3 請求原因3は、本件各支出にかかる公金が北摂整備局における歳出科目である需要費中の食糧費から支出されたものであること、「式日用茶菓子、接待用茶菓子、弁当、非常用炊出賄、警察留置人食料、病院・診療所等の患者食料」が食糧費の具体例の一部であること、食糧費の予算計上の仕方として需要費の節の歳出科目が統合されたこと、交際費に入るべき公の交際に要する飲食費用が食糧費とはその目的が異なり、混同して計上、執行されてはならないものであること及び食糧費の支出が地方財政法四条一項に定める「その目的を達成するための必要かつ最少の限度」を超えてなされてはならないこと並びに条例一九条の規定の内容及び同条の規定する食事料の額が原告ら主張のとおりであることは認め、その余の主張を争う。
4 請求原因4の主張は争う。
5 請求原因5は、本件(一)の支出が監査の対象となったことは否認し、その余を認める。
五 被告の本案の主張
1 本件各会合及び各支出の必要性について
地方公共団体も、自然人と同様に法的に一個の人格を有して社会的に活動する以上、日本の社会的慣行から考えて、当該団体の職員が、その職務遂行上、その活動を行うために必要な儀礼として、社会通念上相当と認められる範囲の会合又は接待を行うことは許されるべきものである。そして、このような会合又は接待に要する経費は、法二三二条一項の「当該普通地方公共団体の事務を処理するために必要な経費」に該当し、法施行規則一五条二項の規定による「歳出予算に係る節の区分」のうち需要費の費目から支弁することとされている。
(一) 本件各会合の開催及び本件各支出に至る背景事情
(1) 北摂三田ニュータウン建設事業の概要
北摂三田ニュータウンは、阪神間における急激な人口増加、産業の都市集中に伴う宅地需要の増大に対拠するため、新住宅市街地開発法(以下「新住法」という。)に基づき、北摂三田の兵陵地帯に計画された、総開発面積一二三七ヘクタール、計画人口約九万人の田園文化都市であって、その建設事業は、昭和四五年一二月一八日に都市計画が定められ、兵庫県と公団(当時の名称は「日本住宅公団」)が共同で開発することとされ、北摂三田ニュータウンの南地区及び西地区については兵庫県が担当し、中央地区及び工業団地については公団が担当することとされたものであり、関西有数の田園文化都市を建設する事業として、公団、三田市、及び兵庫県の一致、協力により進められる大規模かつ複雑なプロジェクトである。そして、この事業と極めて密接に関連する事業として、兵庫県が施行する青野ダム建設事業があり、これは、市営水道を通じて北摂三田ニュータウン居住者の生活に必要な水を送り込む等のための施設を建設しようというものであって、青野ダム建設事業等周辺整備事業として北摂三田ニュータウン建設事業の関連事業に位置付けられている。
(2) 北摂三田ニュータウン建設事業の会計
北摂三田ニュータウン建設事業は、地方財政法施行令一二条一二号に定める宅地造成事業に該当する公営企業の一つであり、宅地等の処分収入を財源とする資金計画を立てている(新住法二一条二項)が、宅地等が処分されるまでの間については、長期借入金等の特定財源により事業を執行しなければならず、県税等の一般財源からの繰入等は一切ない。したがって、借入金利息の負担という観点からも、民間事業同様の厳しい採算性が要求されるものであり、事業の完成が遅延すれば借入金利の支払も増大して採算性に支障を来たすこともありうるという、一般行政とは異なる性格を有するのである。
そこで、兵庫県は、北摂三田ニュータウン建設事業の着手に当たり、北摂開発事業特別会計を設置し、同事業の経理を一般の歳入歳出と区分して経理することとし、さらに、(3)に述べるとおり組織、体制を整備した。
(3) 北摂三田ニュータウン建設事業の推進体制
北摂三田ニュータウン建設事業、青野ダム建設事業等周辺整備事業を一体的かつ総合的に実施するためには、農業対策、道路・河川改修、都市計画等の各行政分野との有機的な連携を図りつつ効率的に各事業を推進するとともに、公団、三田市等他の実施機関との総合調整を図りながら地域整備を推進していかなければならない。
このため、兵庫県は、従来の縦割りの行政組織を廃し、三田土木事務所、青野ダム建設事務所及び新都市建設本部並びに北摂開発農業対策室を北摂整備局へ統合(昭和五一年四月一日)することにより、北摂三田地域の地域性に機敏に対応できる有機的な連携を確保するとともに、北摂三田地域の大規模かつ複雑なプロジェクトも一体的かつ総合的に、しかも効率的に推進するための組織、体制づくりを行い、この組織、体制に合わせて職員の配置を行った。
(4) 北摂三田ニュータウン建設事業及び関連事業の遅延
前記青野ダムの建設事業については、昭和四二年九月二七日に建設計画が発表され、当初は、昭和四三年に着工、昭和五二年完成の予定であったが、水没地の地権者の大多数が戦前からの専業自作農であり、その所有地の大部分が水没することになるため、会員二四六名をもって青野ダム建設反対期成同盟会(以下「同盟会」という。)が結成された。
これに対し、副知事をはじめとする兵庫県職員が関係者の説得に、奔走した結果、徐々に地権者の同意が得られ、昭和五〇年には同盟会の会員は二五名に減少し、さらに三田市及び同市議会議員の協力をも求めて説得に当たった結果、昭和五六年一二月三〇日、兵庫県と同盟会との間で、兵庫県が青野ダム周辺に代替農地を造成して右代替農地によって補償を行う旨の協定が整った。右段階では、まだ五名が同盟会から離脱して青野ダム建設に反対する立場をとっていたが、その後、右五名の反対者の協力をも得られる見込みが立ったことから、昭和五七年一二月に工事着工の運びとなり、昭和六二年三月竣工の予定で建設が進められることとなった。
北摂三田ニュータウン建設事業は、青野ダム建設事業が右に述べたように困難を極め、事業完成の目途が立たなかったため、昭和四九年から造成を開始したものの、分譲を開始できない状況であった。そこで、やむをえず、三田市営の既存水道の給水能力の範囲内で、部分的に分譲可能なものから順次分譲することとし、昭和五六年度から、南地区(当初の計画戸数八六〇〇戸、計画人口四万二〇〇〇人)の一部について分譲が開始された。しかし、右給水能力の制約から、当該分譲予定地の入居目標は八〇〇戸、三〇〇〇人にとどまらざるをえず、分譲実績も低調であった。
ところが、昭和五七年一二月にようやく青野ダム建設事業が着工の運びとなったことにより、北摂三田ニュータウン建設事業を本格的に推進することが可能となり、今までの遅延を取り戻すためにも、精力的に事業を推進することとなった。その結果、昭和五八年一〇月の時点では、北摂三田ニュータウン(南地区)についての入居者約五五〇戸(約二一六〇人)、青野ダム建設事業についてダム用地及び補償事務の執行率が六五パーセントとなったが、これでもまだまだ不充分であり、なお一層の事業推進が要請されていた。
(5) 昭和五八年度における特殊事情
北摂三田ニュータウン建設事業は、昭和五八年当時今までの事業の遅延を取り戻すため、事業全体が急速に動き出すこととなったが、北摂整備局は、その主力である新都市建設部のほか農業振興部、土木部、青野ダム建設部等の各部門を有しているため、局内の連携をさらに円滑化し、国や地元と住民との調整を積極的に図るとともに、北摂三田ニュータウン建設事業を一層推進させる必要に迫られ、また、事業推進に係る協議事項等も例年になく多く、その内容も複雑であったので、会議等による綿密な打合わせを必要としていた。
(二) 本件各会合及び支出の内容
本件各支出は、右(一)に述べたような状況下において、独立採算性の観点から執行される北摂三田ニュータウン建設事業という大規模かつ複雑なプロジェクトを早期に実現し、その遅延によるコストの増加を避けるため、北摂整備局職員が一体となって事業の推進を図らなければならなかったという特別の事情のもとに、右事業の推進のための会合に要する必要最少限度の経費として支出されたものであり、各支出及び会合の内容は次のとおりである。
(1) 本件(二)の会合及び支出について(食糧費の支出金額一万一〇五五円)
昭和五八年一二月二二日、三田市内在住の元兵庫県職員で組織する「北摂のじぎく会」が開催され、その機会に、三田総合庁舎で北摂整備局内の事業概要を説明し、特に北摂三田ニュータウン建設事業及び青野ダム建設事業の促進に側面から協力を得られるよう要請を行ったが、さらにその後、北摂三田ニュータウン及び青野ダムの建設現場の視察を行った。「北摂のじぎく会」に対しては、平素からこれらの事業に協力を得ているため、本来であれば、視察終了後の懇談会は兵庫県が主催すべき性質のものであったが、当日は、「北摂のじぎく会」が自主的に会員相互の親睦を深めるために懇談会を開催したものであったので、その場を借りて事業推進協力を要請するために北摂整備局局長ほか二名の職員が出席した。したがって、懇談会経費は参加者から徴収した会費が充当されることとされ、これにかかる県職員三名の会費相当分として一万一〇五五円の支出がなされたものである。
(2) 本件(三)の会合及び支出について(食糧費の支出金額一一万八七七五円)
昭和五九年一月一二日、三田総合庁舎において、昭和五九年度の事業計画、昭和五八年度の当該時点における主要事業の進捗状況、北摂整備局と三田市、公団等との調整事項等を議題とした局内幹部会議を開催した。北摂三田ニュータウン建設事業等の推進に当たっては、関係機関の庁舎が三田総合庁舎、青野ダム分庁舎及び武庫ヶ丘業務センターの三か所に分散しているため、毎月一回(第二木曜日)定例会議を開催し、各事業部門間の連絡調整を図ることとしていたが、当日は、特に主要事業の進捗状況について各事業部門の幹部が現状を認識して一体的かつ総合的に問題点の解決を図るため、青野ダムの用地買収状況、武庫川河川の改修状況、幹線道路の整備状況、ダム関連の農地嵩上げのための土地改良事業等について詳細に現状説明が行われた。また、当日は、年の初めでもあり、今後の困難な事業を推進する決算を新たにして職員の士気を高める必要もあることから、その後、「如月」において懇談会(出席者一三名)を開催し、その経費として一一万八七七五円の支出がなされたものである。
(3) 本件(四)の会合及び支出について(食糧費の支出金額一五万七三八四円)
昭和五九年一月一二日は、五日間にわたり実施された北摂整備局の事務事業に係る監査委員事務局職員五名による事前の監査の最終日に当たる日であったが、北摂整備局は関係行政部門を統合して設置されたものであるため、農業対策、道路・河川改修、都市計画等の各事業が複雑に関連しており、事務量も多く、現地調査等を含めた事前監査は予定時間を大幅に超え、当日の事前監査結果の検討を終了したのは午後八時を過ぎていた。ところが夕食又は弁当の手配を行っていなかったため、この時点からではもはや弁当の手配を行えず、急遽「宝来」において夕食を供することとし、その経費として二三名分一五万七三八四円の支出がなされたものである。なお、三田地域には、料理旅館、料理屋七軒以外に右食事を提供できる食堂は存しないため、そのうち最も低額の料金の「宝来」(中華料理)に申し込んだものである。
(4) 本件(五)の会合及び支出について(食糧費の支出金額七万一四四五円)
北摂三田ニュータウンの建設については、南地区及び西地区は兵庫県が、中央地区及び工業団地は公団が担当しており、互いに事業の推進について調整を図る必要があることから、昭和五九年二月二一日三田総合庁舎において兵庫県と公団との間で「公団・県事業調整会議」を開催した。当日は、中央地区及び工業団地の町開き計画、三田幹線事業、三田本町駅前広場、青野川改修等について、その現状と問題点を協議した。その後、昭和五八年一〇月に着任した公団関西支社北摂・北神開発事務所長に対する儀礼がまだであったこともあり、これを兼ねて北摂整備局及び公団共催による夕食会(出席者、北摂整備局九名、公団七名)を開催することとし、この夕食会にかかる北摂整備局負担分として八万九八〇五円(タクシー代を除く食費としては七万一四四五円)の支出がなされたものである。
(5) ところで、三田地域には、料理旅館と料理屋が七軒あるのみで、他に会席を設営すべき場所もなく、本件各支出がなされた当時は、料理旅館については料理のみの料金五〇〇〇円以上、料理屋については会席料理四〇〇〇円以上、鍋三五〇〇円以上(料理のみの料金)であり、これに若干の酒類を併せて注文し、サービス料(おおむね一五パーセント)、税金相当額(一〇パーセント)を加算すると、少なくとも一人当たり六〇〇〇円から七〇〇〇円相当以上の費用が必要とならざるをえない。
一方、本件各支出について一人当たりの飲食費用は、
本件(二)の支出について 三六八五円
本件(三)の支出について 九一三七円
本件(四)の支出について 六八四三円
本件(五)の支出について 八九三一円
であり、本件(三)の支出について正月という時期のため通常より若干割高になっているほかは、本件(四)の支出についてはほぼ最低の料金であり、本件(三)及び(五)の支出については会合の目的の重要度、出席者等に応じた料金を決めたものということができ、いずれも社会通念上妥当な範囲の金額である。なお、本件(二)の支出については、本件(二)の会合が「北摂のじぎく会」の主催によるものであることから、必要最少限度の範囲で会費相当分を負担したものであり、これについても社会通念上妥当な範囲の支出額というべきである。
(三) 以上のとおり、本件各支出は、独立採算性のもとで執行される北摂三田ニュータウン建設事業という大規模かつ複雑なプロジェクトを早期に実現し、その行政目的を実現するために必要な会合に要する必要最少限度の経費として支出されたものであり、それぞれ、その支出の目的と金額において社会通念上妥当な範囲のものである。
2 職員の会合に対する食糧費支出の適法性について
北摂三田ニュータウン建設事業のように大規模かつ複雑なプロジェクトを一体的かつ総合的に、しかも効率的に推進するためには、それぞれの異なる専門的分野に配置された職員が各分野を超えて事業全体の進行状況等を把握するとともに、それぞれの行政分野との有機的な連携を図ることが不可欠である。そのために、それぞれの専門分野の責任ある地位の職員が分野や所管を超えた総合的な調整を図る会議等を開催し、これに併せてたまたま必要最少限度の経費をもって会食を行うことがあったとしても、それは社会通念上、職務執行の上で必要なものであり、このことは業務の円滑な遂行のために日本の社会的慣行としても行われているところである。
したがって、単に職員の会合で行われたという一事のみをもって、会食に要する経費を食糧費として支出することが違法又は不当であり、また、必要最少限度の経費の範囲を逸脱したものであるとはいえない。
3 食糧費と食事料の相違について
食糧費は、地方公共団体が儀礼として行う社会通念上相当と認められる範囲の会合又は接待に要する経費として、会合又は接待のため食事、場所等を提供する業者と地方公共団体との契約により、直接業者に支払われるものであり、法施行規則一五条二項の規定による「歳出予算に係る節の区分」のうち需要費の一費目である。これに対し、食事料は、旅費の費目から支弁することとされており、出張する職員本人に対して支払われるものである。そして、原告が主張する食事料は、職員が任命権者の旅行命令により職務として出張した場合に、条例六条に基づき支給される旅費の種類の一つであるところ、その支出基準が限定されており、(条例一九条二項)船舶又は航空機を利用しての出張の際、船賃又は航空賃の中に食事料が含まれていない場合で、船舶又は航空機の中で通常夜食として必要となる経費が別途必要とされるときに限り、定額により支給されるものである。
以上に述べたとおり、食糧費と食事料は、支出の法的根拠を異にし、その性質及び内容は全く異なるものである。
したがって、船舶又は航空機の中の夜食に要する旅費の種類の一つである食事料の支出金額の基準、すなわち二二〇〇円から一四〇〇円までの金額をもって、接待又は会合に要する食糧費の支出金額の基準とすべきものであるとする原告の主張は、理由がない。
4 不法行為ないし不当利得の不成立
既に述べたとおり、本件各支出のうち、被告に支出権限があるものは、いずれも社会通念上妥当な範囲の支出であり、したがって、これらについては何ら違法性はないのであるから、右違法性のない支出について被告の故意過失は論じる余地がない。
また、被告の本案前の主張において被告に支出権限がないと主張する本件(二)及び(五)の支出については、仮にこれを本案の問題として考えたとしても、内部委任により無権限となった被告は、右支出に実質的に関与していないことが明らかであり、被告の故意又は違法性がないこととなるから、被告についての不法行為は成立しない。
さらに、本件各支出はいずれも適法なものであるから、これについて不当利得の成立する余地もない。ちなみに、不当利得については、本件の場合、被告に現有利益はなく、返還請求権は発生しないものである。
六 被告の主張に対する原告の反論
1 職員の内輪の会食に対する食糧費の支出について
北摂三田ニュータウン建設事業は、現代の肥大化、多様化した行政において、とりたてて被告主張のような「大規模かつ複雑なプロジェクト」と評価しなければならないものではない。仮に、「大規模かつ複雑なプロジェクト」と評価すべきものであったとしても、そのことから直ちに、会議後の内輪の宴会が適法となるものではない。
兵庫県における各分野の関係職員が、事業全体の進行状況などを把握するために相互の連絡を緊密に保つことが必要であることは当然であり、各種の連絡協議会の開催等により、右連絡や調整が図られるものである。
何ゆえに、右連絡協議会等の後にたまたま行われた会食で、通常の食事料(支出項目が旅費)や、食糧費(支出項目は需要費であるが、その支出形態は、行政事務執行上直接食糧として必要となる式日用茶菓子、非常炊出賄等であり、それらの場合の一人当たりの支出額)を大幅に超過する一人当たりの食糧費の支出が許されるのか、一般市民感情では理解することができない。
本件各会合における一人当たりの飲食金額は、
本件(一)の会合について 一万五九七二円
本件(二)の会合について 五五〇〇円以上
本件(三)の会合について 一万一〇〇〇円以上
本件(四)の会合について 八〇〇〇円以上
本件(五)の会合について 九八〇〇円以上
であり、到底市民感情において許容することができるものではなく、被告の主張するように「日本の社会的慣行」として行われているといえるものではないのであって、「必要最少限度の経費をもって行った会食」とはいえないものである。
もし、被告のかかる主張が認められるなら、通常の会議に併せて宴会と差異のない会食が行われることが一般化し、いわゆる「宴会政治」が蔓延することは明白である。
2 食糧費と食事料の相違について
通常の会議に際して、又はその後に、職員の会食が必要である場合に、食糧費からの支出が許容される必要最少限度の基準は、食糧費には具体的な支出基準がないから、食事料の基準を準用すべきである。支出の法的根拠が異なることから、直ちに会議後の会食において食事料の基準を大幅に超過する食糧費の支出が許容されるものではない。
第三 証拠<省略>
理由
一 法二四三条の二による法二四二条の二第一項四号の適用排除の主張について
法二四三条の二の規定は、同条一項所定の職員の行為に関する限り、その損害賠償責任については民法の規定を排除し、その責任の有無又は範囲は専ら同条一、二項の規定によるものとし、また、右職員の行為により当該地方公共団体が損害を被った場合に、賠償命令という地方公共団体内部における簡便な責任追及の方法により損害の補てんを容易にしようとした点にその特殊性を有するにすぎず、同条が、同条一項所定の職員の行為について同条三項に規定する賠償命令による以外の方法によって責任を追及されることがないことまでをも規定した趣旨のものであると解することはできない(最高裁判所昭和六一年二月二七日判決、民集四〇巻一号八八頁以下)。
したがって、右賠償命令をまつことなく、法二四三条の二第一項四号の規定によって、法二四三条の二第一項所定の職員に対し同項所定の行為を理由として損害の補てんを求める訴えが不適法であるということはできない。
二 監査請求前置の要件不充足の主張について
本件(一)の会合が昭和五八年五月一六日に開催されたことは、当事者間に争いがなく、弁論の全趣旨により真正に成立したと認められる甲第六号証によれば、右「古泉閣」に対する飲食費の支払は昭和五八年五月二〇日になされたことが認められ(この認定を覆すに足る証拠はない。)、本件(一)の支出にかかる監査請求がなされた昭和五九年五月三〇日(監査請求がこの日になされたことは、原告も明らかに争わない。)の時点では、右昭和五八年五月二〇日から起算して既に一年の期間が経過していることが明らかである。
そこで本件(一)の支出に関する監査請求が右支出から一年を経過した後になされたことにつき、法二四二条二項ただし書き所定の「正当な理由」があるか否かを検討するに、同項にいう「正当な理由があるとき」とは、例えば、当該行為がきわめて秘密裡に行われ、一年を経過した後に初めて明るみに出たような場合、あるいは、天災地変等による交通途絶により請求期間を経過した場合のように、当該行為のあった日又は終った日から一年を経過したことについて特に請求を認めるだけの理由があることを指すものであると解すべきところ、本件(一)の会合ないし支出がことさら秘密裡に行われたこと等の事情を窺わせるような証拠はないから、原告らが監査請求期間を徒過したことにつきやむをえない正当な理由があったと認めることはできない。
よって、本件訴えのうち、被告に対し本件(一)の支出にかかる公金の補てんを求める部分は、監査請求前置の要件を充足しないものであり、不適法な訴えとして却下を免れない。
三 請求原因について
1 請求原因1(当事者)について
原告らがいずれも兵庫県民であること、被告が昭和五八年度当時、北摂整備局次長兼総務部長であったことは当事者間に争いがない。
2 請求原因2(本件各会合及び各支出の内容。但し、前示のとおり監査請求前置の要件を充たさない本件(一)の会合及び支出に関する主張を除く。)について
(一) 請求原因2のうち、次の各事実は、いずれも当事者間に争いがない。
(1) 同(二)のうち、昭和五八年一二月二二日、「律泉」において行われた懇談会に、被告ほかが出席したこと。
(2) 同(三)のうち、支出金額の点を除くその余の事実。
(3) 同(四)のうち、昭和五九年一月一三日、北摂整備局の事務事業に関して県監査委員事務局職員が事前監査を行った後、右職員を含む北摂整備局と本庁各部の担当職員合計二三名が「宝来」において飲食したこと。
(4) 同(五)のうち、昭和五九年二月二一日、公団と北摂整備局ほかとの間の「公団・県事業調整会議」終了後、「おがや亭」において北摂整備局職員九名及び公団職員七名ほかが飲食したこと。
(二) <証拠>によれば、本件各会合及び各支出当時の背景事情並びに本件各会合及び各支出の内容に関して次の各事実が認められ、右認定を覆すに足る証拠はない。
(1) 本件各会合当時の背景事情について
ア 北摂整備局は、昭和五一年四月に、三田土木事務所、青野ダム建設事務所、新都市建設本部、北摂開発農業対策室、北摂開発同和問題参事室が統合して開設された部局で、北摂地方における開発、同地域の地方機関の調整事務を扱っており、その主なものは、北摂三田ニュータウンの建設、その周辺地域の開発、青野ダム建設事業の円滑促進、三田地域の農業対策、道路・河川の改修、都市計画の施行、県民相談、公報事務であるが、中でも北摂三田ニュータウン建設は、昭和五八年度当時においてその最も中心的な業務を占めるものであった。
イ 右北摂三田ニュータウン建設事業は、その給水源となる青野ダムの建設事業(当初の完成予定は昭和四九年)が用地買収の点で難航して大幅に遅れ、昭和五七年秋にようやく本体工事が着工したという状態であった。
ウ ところで、北摂三田ニュータウンの建設事業は、県の資金を投入して行われる事業ではなく、特別会計で、借入金により運営しているものであり、事業の進行が遅れると、それだけ借入金の利息がかさむことになるので、早期に造成の完了した土地等を分譲して、収支が相償うようにする必要があった。
エ そして、本件各会合が行われた昭和五八年度は、北摂三田ニュータウン建設計画にとって、今までの遅れを取り戻すことが緊急の課題とされた年であった。すなわち、青野ダム建設事業が昭和五七年末に本体工事に着工し、工事の進捗があったが、用地買収等の進捗率は六五パーセント程度であり、まだ三五パーセントほど残っていたので、本体工事と併行して用地買収を進める必要があり、また、北摂三田ニュータウンでは、同五九年度から本格的入居を始めるべく、同五八年度でほぼ地域の造成を完成させる必要があったため、北摂三田ニュータウン建設事業、青野ダム建設事業を円滑に進める必要がことに大きかった。
オ なお、北摂整備局(三田総合庁舎)は三田市の市街地から約一・五キロメートル離れた場所に位置しており、北摂整備局(三田総合庁舎)の周辺には手頃な食事をするのに適した飲食店は存在しない。
(2) 本件(二)の会合について
ア 本件(二)の会合は、三田市在住の元兵庫県職員で組織される「北摂のじぎく会」が毎年一回一二月に開催している同会の総会に引き続いて催された懇談会であり、右会合自体は、「北摂のじぎく会」の主催にかかるものである。
イ 本件(二)の会合が催された昭和五八年一二月二二日には、北摂整備局(三田総合庁舎)で「北摂のじぎく会」総会と、北摂整備局として外部からの北摂三田ニュータウン建設事業等への協力を依頼する趣旨の集会とを兼ねた会議が開かれ、北摂整備局局長が北摂三田地域の開発状況等を説明し、その後、北摂三田ニュータウン及び青野ダム建設現場等を視察し、「律泉」において本件(二)の会合が持たれた。
ウ 「北摂のじぎく会」の会員は、元兵庫県庁の職員であり、特に北摂三田ニュータウン建設事業、青野ダム建設事業、河川改修等を担当していた職員であった者やそれら地域開発にかかわる地権者が多く、北摂整備局としては、右「北摂のじぎく会」の会員に平素から同局の事業に協力をしてもらっていたことに加え、本件(二)の会合の当日、「北摂のじぎく会」会長から出席の要請があったので、今度の事業推進に対する協力を要請するために、北摂整備局から同局局長、被告ほか一名が出席した。
エ 本件(二)の会合に要した費用は、出席者による分担で賄われ、北摂整備局から出席した三名については、会費相当額である合計一万一〇五五円が割り当てられ、前記のような北摂整備局と「北摂のじぎく会」との平素からの協力関係、今後の「北摂のじぎく会」会員に対する協力要請等に鑑み、右同額を北摂整備局で公費負担により支出した。
オ 「律泉」での通常の飲食料金は、税金及びサービス料を含めて、一人当たり七〇〇〇円ないし八〇〇〇円である。
(3) 本件(三)の会合について
ア 本件(三)の会合は、毎月一回、第二木曜日に定例的に開催されている北摂整備局局内幹部会として催された。
イ 北摂整備局局内幹部会は、通常、午前九時半から開催され、午前中で終るが、本件(三)の会合当日の局内幹部会は、午後一時三〇分に開会され、北摂三田ニュータウン建設事業、青野ダム建設事業、武庫川改修等、特に青野ダム建設事業に関して非常に重要な時期であったので、今後の円滑な推進のために議題が輻輳し、各問題点が種々協議されたため、午後五時半まで会議が行われた。
ウ 本件(三)の会合当日は、右のように会議に長時間を要すことが当初から予測されたことに加え、昭和五八年度は前記(1)に認定したとおりの重要な時期であり、また、本件(三)の会合当日は年の初めでもあるので、北摂整備局各部の幹部が意思を新たにして事業に取り組むことができるように、各部の連絡、調整等について士気高揚を図るために、局内幹部会を午後一時半からの時間帯に設定し、その後に飲食を伴う懇談会を開くこととした。
エ 北摂整備局の局内幹部会には幹部職員全員が参加することとされており、本件(三)の会合に先立つ会議には幹部職員の全員が参加したが、本件(三)の会合には、北摂整備局幹部職員のうち右局長及び新都市部長を除く、被告、事務次長、各部の部長、副部長等合計一三名が出席した。
オ 本件(三)の会合は、懇談会ではあるが、慰労会の性格のものではなく、諸問題を提起し、互いに事業の協力について話し合う場であった。
カ 本件(三)の会合に要した飲食費として一一万八七七五円が北摂整備局の食糧費から、また、二万六七五〇円が出席者が会合場所の「如月」から各自宅に帰るためのタクシー代として同局の使用料から、それぞれ支出された。
キ 「如月」での通常の飲食料金は、税金及びサービス料を含めて、一人当たり七〇〇〇円ないし八〇〇〇円である。
(4) 本件(四)の会合について
ア 本件(四)の会合は、北摂整備局における事前監査結果検討会として催されたものである。
イ 北摂整備局においては、兵庫県の監査委員による監査に先立ち、毎年、監査委員事務局の職員が実施する事前監査(予備監査)が行われ、通常、事前監査後には事前監査検討会が開かれて、事前監査に基づいて意見の交換がなされている。
ウ 右事前監査は、通常は勤務時間内に行われるが、本件(四)の会合に先立つ事前監査については、北摂整備局では、農村対策、河川改修、道路、北摂三田ニュータウン建設等、事業が多種にわたり、相互に関連があるとともに、事業量が多いため、監査が非常に遅延して予定時刻を大きく超過し、事前監査終了後の事前監査結果検討会が開かれた時刻は午後八時を過ぎていた。
エ 右事前監査検討会については、もともと事前監査が勤務時間内に終ると判断して食事の予定、準備はしていなかったところ、右のような事情から急遽、食事を提供することにされたが、三田市においては、飲食業者は大体午後七時頃に営業を終ってしまうので、午後八時になると、出前を取ることができず、また、右時刻においては他に適当な食事の場所もなかったため、「宝来」に食事の席を設けることになった。
オ 本件(四)の会合には、事前監査結果に対する意見交換の必要上、北摂整備局の各部局から一八名、監査委員事務局から五名、合計二三名が出席した。
カ 本件(四)の会合に要した飲食費として北摂整備局の食糧費から一五万七三八四円が、また、遠方からの参加者が「宝来」から各自宅に帰るためのタクシー代として同局の使用料から二万八四五〇円がそれぞれ支出された。
キ 「宝来」は、中華料理店で、同店での通常の飲食料金は、税金及びサービス料を含めて、一人当たり六〇〇〇円ないし七〇〇〇円である。
(5) 本件(五)の会合について
ア 本件(五)の会合は、北摂整備局と公団との調整連絡会議における夕食会として催されたものである。
イ 北摂三田ニュータウン建設事業においては、北摂三田ニュータウンの南地区及び西地区は兵庫県が、中央地区及び工業団地は公団がそれぞれ担当しているので、北摂整備局及び公団では、これら事業の連絡・調整を図るため、二か月に一度程度、調整連絡会議を開催していた。
ウ 右調整連絡会議は、通常は、午前中に行っていたが、本件(五)の会合の当日は、昭和五八年一〇月に公団関西支社・北摂北神開発事務所長が交代したので、新所長の就任に対する儀礼として懇談会を行うように公団側からの要請があり、北摂整備局では、右新所長の就任後そのような儀礼の機会を失していたので、本件(五)の会合を開くことにした。
エ 本件(五)の会合当日には、通常の調整連絡会議として、午後三時から五時半まで、北摂整備局(三田総合庁舎)で、北摂三田ニュータウン中央地区及び工業団地の町開き、三田幹線、三田駅前広場の整備、青野ダムの進捗問題等種々の問題を提起、検討し、その後、公団の設営した「おがや亭」に場所を移して本件(五)の会合を開き、これに、北摂整備局から九名、公団側から七名、合計一六名が出席した。
オ 本件(五)の会合に要した飲食費は、北摂整備局と公団とで折半され、北摂整備局の負担分として七万一四四五円が北摂整備局の食糧費から支出されたほか、一万八三六〇円が会合後のタクシー代として北摂整備局の使用料から支出された。
カ 「おがや亭」での通常の飲食料金は、税金及びサービス料を含めて、一人当たり七〇〇〇円ないし八〇〇〇円である。
(6) 以上、本件(二)ないし(五)の会合及び支出について、出席人員並びに食糧費の総支出金額及び出席者一人当たりの支出金額は、次のとおりである。
3 被告は、本件(二)及び(五)の各支出については、被告に支出の権限がなかったのであるから、本件訴えのうち右支出額相当の補てんを求める部分は、被告とすべき者を誤った不適法なものであると主張するので、検討するに、
(一) 被告は、昭和五八年度当時、北摂整備局次長の職にあったのであるから、行政組織規則に基づき、同局局長の職務を補佐し、地方機関の所掌事務を整理し、所属職員の担当事務を監督する職責を有していたものと認められ、一応、北摂整備局所属職員のなした財務会計上の違法行為に関して、代位請求訴訟における被告適格を有していたものというを妨げない。
(二) もっとも、北摂整備局における支出負担行為及び支出命令にかかる権限については、地方機関処務規程及び北摂整備局処務細則の定めに基づき、被告主張のとおり、その内容に応じて、局長の権限が、総務部長、副部長及び経理課長に配分されていたことは、当事者間に争いがない。
すなわち
(1) 総務部長の権限(専決事項)
ア 一件五万円以上の食糧費の執行にかかる支出負担行為
イ 一〇〇〇万円以上の支出命令
(2) 総務副部長の権限(代理決裁事項)
ア 一件五万円以上一〇万円未満の食糧費の執行にかかる支出負担行為
イ 一〇〇〇万円以上の支出命令
(3) 総務部経理課長の権限(専決事項)
ア 一件五万円未満の食糧費の執行にかかる支出負担行為
イ 一〇〇〇万円未満の支出命令
とされていた。
(三) そこで、本件(二)の支出についてみるに、右2に認定したところによれば、一万一〇五五円が北摂整備局の食糧費から支出されたというのであり、右金額を超えて公費支出がなされたことを認めるに足る証拠はないから、右権限配分の定めに照らすと、その支出権限は、北摂整備局総務部経理課長がその専決事項としてこれを有していたものということになる。
しかし、右2に認定したところによれば、被告は、北摂整備局次長兼総務部長として、本件(二)の会合への北摂整備局職員の参加に関与したほか、自ら右会合に出席したのであり、本件(二)の支出に実質的に関与し、右支出が違法である場合にはこれを是正ないし阻止しうる立場にあったということができるから、右の権限配分の定めにかかわらず、被告適格がないということはできない。
(四) また、本件(五)の支出については、右2に認定したところによれば、飲食費として七万一四四五円が食糧費から、タクシー代として一万八三六〇円が使用料から、それぞれ支出されたものであり、右金額を超えて公金支出がなされた事実を認めるに足る証拠はないから、前記の権限配分の定めに照らすと、右食糧費の支出権限は一応、総務部副部長の権限に属していたということになる。
しかし、右権限は代理決済の権限にすぎない上に、被告は、北摂整備局次長兼総務部長として、本件(五)の会合の開催に関与したほか、自ら右会合に出席したのであり、本件(五)の支出に実質的に関与し、右支出が違法である場合には、これを是正ないし阻止しうる立場にあったということができるから、(三)と同様、被告適格を否定することはできない。
なお、使用料から支出されたタクシー代に相当する金額については、右タクシー代相当の公金の支出権限についての北摂整備局における権限の定めが必ずしも明確ではないが、仮に内部委任がなされていたとしても、被告は、前示のとおりその支出に実質的に関与したものであるから、右支出についての被告適格をも有するものとしていえる。
以上の次第で、結局、本件(二)及び(五)の支出について、被告に代位請求訴訟における被告適格が存しないとする被告の主張は、採用することができない。
4 本件各支出の違法性について
(一) 法二三二条の三違反(予算の目的外支出)の主張について本件各支出が北摂整備局における歳出科目である需要費中の食糧費から支出されたこと、食糧費の具体例として式日用茶菓子、接待用茶菓子、弁当、非常用炊出賄、警察留置人食料、病院・診療所等の患者食料の費用があげられていること、交際費に入るべき公の交際に要する飲食費用が食糧費とはその目的が異なり、混同して計上、執行されてはならないものであることは、いずれも当事者間に争いがない。
そして、食糧費からの公金支出は、本来、右具体例に準じるような、行政事務執行上に直接必要な最少限度の食糧の調達のためになされることを原則とすべきであり、右2に認定した本件各支出についての支出目的、会合場所の設定、一人当たりの飲食費の金額等に照らし、これが本来食糧費からの支出を予定されている公金と性格を異にする面があることは否定できない。
しかし、本来各支出は、本件(五)の支出の一部を除いて、いずれも兵庫県の職員の飲食に対してなされたことに照らすと、交際費の性格のみを有するとはいえない面があるほか、そのうち食糧費からの支出はすべて飲食代金に充当されていることからみて、これが食糧費の性格を有しないとまではいえない。そして、法施行規則一五条別表の「歳出予算に係る節の区分」においては、「節及びその説明により明らかでない経費については、当該経費の性質により類似の節に区分整理すること」とされているほか、「節の当初の番号はこれを変更することができないこと」と規定され、右別表に記載されない新たな歳出費目を設定することができないことに鑑みれば、本件各支出を需要費中の食糧費に整理区分して支出したことが違法であるとまではいえないと解すべきである。
(二) 地方財政法四条一項違反(目的達成のための必要かつ最少限度の範囲の逸脱)の主張について
(1) 地方公共団体も、自然人と同様に法的に一個の人格を有して社会的に活動する以上、日本の社会的慣行から考えて、当該団体の職員が、その職務遂行上、その活動を行うために必要な儀礼として、社会通念上相当と認められる範囲の会合又は接待を行うことは許されるべきものであり、その場合、いかなる程度の、いかなる内容の会合又は接待を行なうかは、それに要する費用の支出権限を有する職員の自由裁量に委ねられているものである。もとより、裁量行為といえども、地方公共団体の存立目的に照らして社会通念上著しく妥当性を欠くものであってはならず、その支出も地方財政法四条一項の規定に従い、必要最少限度を超えてはならないのは当然である。
(2) そこで、本件各支出について、前記2において認定した事実に従い,これらが社会通念上著しく妥当性を欠くものといえるか否かを検討するに、本件各支出における一人当たりの飲食代金額は、本件(二)の支出について三六八五円、本件(三)の支出について九一三七円、本件(四)の支出について六八四三円、本件(五)の支出について七九三八円に達しており、特に本件(三)ないし(五)の支出については通常の食事に要する金額をはるかに超過し、これらの支出にかかる会合が「宴会」と評価すべき実質を有していたことが窺えること、本件(三)及び(四)の会合は、県庁の内部の会合であり、特に本件(三)の会合は北摂整備局内部の幹部職員の会合であるところ、右各会合当時、前示2において認定したとおり、北摂三田ニュータウン建設事業が重要な段階を迎えており、その円滑な推進のために、北摂整備局の幹部職員が士気を高揚させ、また、北摂整備局の各部や兵庫県の他の各部局が緊密な連絡をとり協力関係を保つ必要があったとしても、それらは公金の支出による飲食の席の有無にかかわらず兵庫県職員として当然に精励すべき事柄であり、兵庫県の各部局の連絡、調整についても、各種の連絡協議会の開催等によってこれを図ることを期待しうるのであって、あえて公金の支出を伴いかつ「宴会」と評価できるような会合を持たねばならぬほどの必強性は希薄であること、本件(三)の会合については、年の初めの節目の時期に当たるとはいえ、あえて右会合の場所である「如月」が年初の割高な料金を設定していると思われる時期に会合を持ち、右「如月」の通常の飲食料金を一人当たり少なくとも一〇〇〇円以上上回るような飲食費用の全額を公費負担していること、本件(四)の会合については、事前監査とはいえ、監査をなす者とこれを受ける者とが一堂に会合を持っていること等の諸点に照らせば、本件各支出は、食糧費の支出の態様として穏当を欠くことの謗りを免れないというべきである。
しかしながら、前示2の認定した、昭和五八年当時における北摂三田ニュータウン建設事業の円滑な推進と早期完成の必要性、そのための北摂整備局内、兵庫県庁各部局、さらには県庁外部の関係各組織との連絡、協力の必要性に照らして考えれば、本件各会合はそれらの目的を達するために一応は有益であると認められ、また、内部の会合について飲食費を公費負担することが本来好ましくないことであっても、それらの会合が、事実問題として、北摂三田ニュータウン建設事業等の円滑な促進、ひいては兵庫県財政の健全化に間接的ながらも効果を有することを窺いえないでもないこと、本件各会合に要した飲食料金は、当該会合がなされた時期における当該会場となった料理店の通常の飲食代金に照らして特に高額なものではなく、各会合において社会通念上特に遊興的な行為がなされたとは認め難いこと、その他、北摂整備局(三田総合庁舎)周辺に手頃な食事をするのに適した飲食店が存在しないという立地条件、本件(四)の会合について三田市の他の飲食店のほとんどが閉店後であったという時間的事情、さらに、本件各会合における出席者数及びその構成等、諸般の事情を総合して考えれば、いまだ、本件各支出が社会通念上著しく妥当性を欠き、被告又は当該支出に関して専決決裁権限を有する職員の自由裁量の限度を逸脱して違法であるとまでは評価しえないものと解するのが相当である。
また、原告らは、本件会合に際して食糧費から支出することが許容される公金の額について条例一九条の食事料に関する規定を準用すべきことを主張するが、食糧費と食事料は支出の法的根拠を異にするほか、右条例の規定は兵庫県の職員が県の行政事務執行のために旅行する際に適用されるもので、本件のような場合とはその適用の場面を異にするものであって、本件各支出の違法性を判断するについて直ちにその基準となるものではなく、これを本件の場合に準用ないし類推適用することはできない。
(3) なお、本訴は、本件各会合に際してその出席者が自宅へ帰るために使用したタクシー代(これは、前記2に認定のとおり、北摂整備局の使用料から支出された。)についても、その支出相当額の補てんを求める趣旨と解されるが、右の各タクシー代の支出については、タクシー利用者の人数、各利用者毎のタクシー料金、本件各会合の会場と利用者の自宅との距離的関係、タクシーが使用された時刻等について、いずれもこれを明らかにする証拠がなく、これらの具体的事情を確認することができないから、右タクシー代の支出を違法であるとまで評価することはできない。
(三) 以上に判示したとおり、本件各支出が違法であるとまではいえない以上、被告には右支出相当額の損害補てん義務はなく、また、被告が本件各支出に関し不法行為あるいは不当利得の責任を負うとは言い難い。
三 結論
以上の次第で、本件訴えのうち本件(一)の支出にかかる公金相当額の補てんを求める部分は不適法な訴えであるからこれを却下し、原告らのその余の請求は理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条、九三条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 林 泰民 裁判官 岡部崇明 裁判官 植野 聡)